連載「うちのSkill」は、運営元が実際に使っているSkillを紹介する回です。今回はwriting-norms、文章を書く全AI社員が出力前に必ず適用する日本語の文章規範です。

複数のAI社員が記事やメルマガやレポートを書く体制では、文体を人ごとに揃えるのが難しくなります。ある社員は結論を先に書き、別の社員は最後にまとめを置く。ある社員は根拠のない言い切りを好み、別の社員は推量表現を残す。読み手からすれば、誰が書いても同じ会社の文章に見えてほしいところです。writing-normsは、この揃え方をSkillとして解決しています。

文体ガイドラインを配るのではなくSkillとして配る

文章規範そのものは目新しくありません。多くの組織が文体ガイドラインを一度は作ります。問題は運用です。ガイドラインを一度読んでも、二週間後の執筆で内容を覚えている書き手は多くありません。読ませる文書として配る限り、実行される保証がないのです。

writing-normsはこの問題を、規範を毎回読み込ませる仕組みに変えることで解決しています。文章を出力する作業に入ると、Skillの内容がその場で適用され、書き終えたら推敲チェックリストで自己点検してから出す運用になっています。周知ではなく実行にしたことで、誰が書いても同じ基準がかかります。

規範の中身。空虚な表現の排除と論理の厳密さ

規範の柱は大きく三つです。一つ目はLLMっぽい空虚な表現の排除です。「重要なのは」「正面から扱う」「多角的に」といった、論点を増やさずに書いている感だけを出す言い回しを禁じています。二つ目は論証の厳密さです。推量や可能性を根拠なく断定に変えない、異なるものを同じとまとめない、因果を主張した箇所ではその機構を一文で示す、といった点検項目が並びます。三つ目は冗長の排除で、同じ主張の言い換え反復や、読者が自力で補える中間段階の説明を削ります。

記号の使用ルールも定めています。emダッシュや二倍ダッシュの「——」、日本語の並列で使う中黒の「・」は使いません。同格や補足の挿入は括弧に、言い換えは句点で二文に分けるか読点でつなぐ形に置き換えます。この記事自体も、この規範を適用して書いています。

SKILL.mdの推敲チェックリスト

SKILL.mdの冒頭には、出力前に必ず確認する推敲チェックリストが並んでいます。抜粋は次のとおりです。

- [ ] 一文一行で書き、段落は空行で区切ったか
- [ ] 論証は一方向か(結論→反論処理→結論の言い直し、になっていないか)
- [ ] em/2倍ダッシュ「——」「―」、並列の中黒「・」を使っていないか
- [ ] LLM口調(「正面から扱う」「重要なのは〜」「掘り下げる」等)を使っていないか
- [ ] 同じ主張の言い換え反復・重複した節がないか

チェックリストは点検の入り口にすぎません。SKILL.md本体には、段落構成、論証の厳密さ、視点と語り、演出の抑制、見出しの付け方まで、各項目に悪い例と良い例が添えられています。悪い例と良い例を対で示す形式は、抽象的な原則より実効性があります。書き手が自分の下書きと見比べて、どちらに近いかを判断できるからです。

媒体ごとの優先順位を明文化している

この規範は技術文書向けの記述から出発していますが、対象は記事やメルマガやSNS投稿やレポートまで広く及びます。媒体によっては強い訴求や短文や絵文字が必要になる場面もあり、そうした媒体固有の慣行とこの規範が衝突することもあります。SKILL.mdはこの衝突を想定していて、媒体の目的を優先しつつ、空虚な表現の排除や論理の厳密さといった核だけは維持する、という優先順位を明記しています。全面適用ではなく核だけを残す設計にしたことで、セールスコピーのような規範外の文章にも無理なく適用できています。

自分の組織で真似るには

文体ガイドラインを作った経験がある組織は多いはずです。真似るときの要点は、ガイドラインを読ませる文書のまま終わらせず、執筆という作業の中に組み込むことです。書く前に規範を読み込む、書き終えたらチェックリストで自己点検する、という二段構えを作業手順そのものに埋め込めば、規範を覚えているかどうかに依存しなくなります。また、良い例と悪い例を対で示すことも有効です。抽象的な形容詞での指示よりも、具体例の比較のほうが、書き手の判断を安定させます。